栗山大膳とその父善介(備後守利安)は、主家黒田家とは主従の枠を超えた親密な関係があった。
栗山善介は、黒田官兵衛孝高(後に如水と号する)に仕え、母里太兵衛や後藤又兵衛らと共に黒田24騎・黒田八虎と言われた。戦場であげた首級57と、家臣でもずば抜けた戦功を挙げている。
また善介は、主君官兵衛を半死半生の世界から救いだした功績もあった。秀吉の与力として参謀を勤めていた官兵衛は、信長に反旗を翻した同じ切支丹武将の荒木村重のいる有岡城に説得に行くのである。しかし、逆に土牢に1年もの間幽閉されてしまう。
長い間、陽も差し込まない地下牢に入れられた官兵衛は、すっかり身体も干からび歩行困難の姿になっていた。この官兵衛を有岡城の落城の中で救い出したのが、栗山善介なのである。
一方、官兵衛が消息不明になり、信長は官兵衛も裏切ったと激怒した。そして秀吉の長浜城にいる官兵衛の嫡男・松寿丸を斬る様に、竹中半兵衛に命じた。しかし官兵衛が裏切ったという確証を得ない半兵衛は、自領に長政をかくまって、信長には虚偽の報告をした。半兵衛はこの翌年、命令違反を問われることなく、病没している。
その竹中半兵衛にかくまわれ、命拾いした松寿丸こと黒田長政は、関ヶ原の戦いでは徳川家康の陣営に加わった。黒田父子とも朝鮮出兵の頃から、石田三成を嫌い、また豊臣政権とも疎遠になっていたのだ。
また家康の養女(姪)を正室として迎え、徳川家とは縁戚関係となっていた。この正室は、2代目藩主忠之、秋月藩初代藩主長興や高政らを産むのである。
長政は、豊臣恩顧の大名であり、長浜城の人質時代の旧知である福島正則や加藤清正たちを根回しして、その多くを家康の東軍に味方させたのであった。家康を天下人に押し上げた、最大の功労者は長政なのである。
家康はこの長政の功に、手を取って称し、黒田家子々孫々まで粗略にしない旨の感状を与えたのだ。
この家康の感状は、黒田藩52万石の初代藩主となった長政が死の間際、嫡男忠之には秘し、大膳を始めとした藩のごく少数の重臣にしか明かさなかったのである。感状を盾に、後継藩主が驕慢な姿勢を幕府に見せるのを恐れたのであった。
藩祖黒田長政の嫡男として、生まれながらの大名であった黒田忠之。奇行も多かったと伝えられる。家康の養女の子ということで、徳川秀忠のもとで元服した。忠之の「忠」の字も、秀忠から一字もらったのである。
そもそも長政は幼少の時から、人質生活で死線も幾度と無く乗り越え、戦国時代を勝ち抜いた武将である。贅沢を好み、遊興を重ねる子に黒田家を任せるのが不安でしょうがなかった。
父如水も異能者であった。何せ関ヶ原の戦いで息子が槍働きしている時、九州を攻略して全国制覇の足掛りにしようとしていたのである。中央で戦局が長引くと踏んでいたのが、皮肉にも息子が、わずか1日で家康に天下を与えたのだ。
意気揚々と父の前で、長政は自分の働きを報告するのだが、家康が自分の手を握り、感謝したくだりになると、“家康が手を取った時、お主のもうひとつの手はどうしていたのだ。”という父であった。つまり自分の野望の為に、息子のお前はもうひとつの手で家康を刺し殺せば良かったのだ、と言っているのである。その行為は、長政が家康の家臣から惨殺されることも意味する。
長政の戦国期を切り抜けた濃厚な価値観の中では、息子忠之では家の存続にいかにも危なっかしい。長政も自分との後継者として忠之の器量を危ぶみ、幾度となく廃嫡を考えた。商人にさせようともした。
この長政の廃嫡の動きに対し、忠之の傳(も)り役であった栗山大膳が防波堤となって、ことごとく守ったのである。
長政も最後には、大膳ら重臣が藩の運営を間違いなく補佐してくれるだろうと後事を託したのであったが、一抹の不安からか、長興に秋月5万石を、高政には東蓮寺(直方)4万石を与えて分家独立させ、本家に何かあっても黒田家の家名が残るようにもしている。
長政から重用された栗山大膳は、武芸全般に秀でいたが、書道に詩歌に長じ、また幕府の学頭・林羅山の薫陶も受けた当時一流の教養人でもあった。黒田藩52万石の筆頭家老であり名士として、幕閣や諸藩の有力者との交流も多かったであろう。
長政が薨去した後も忠之の奇行が納まらず、家臣をむやみやたら打ち叩いたり、幕府に禁じられた大船を建造したりと、大膳の諫言は繰り返された。大船建造の件は、大膳が幕府に申し開きをして解決させている。
講談では黒田家家宝の水牛の兜をかかげて、大膳が諫言したと言われているが、忠之にとって孔子がどうした、大学(中国儒学の本)ではこう書かれている、と言って説教してくる大膳が小うるさくてしょうがない。
自然と大膳を遠ざけ、寵愛する倉八十太夫を重用するのであった。
(後編に続く)
【参考文献】
『黒田家譜 第1、2巻』 貝原益軒、他 著
『博多に強くなろう2』 福岡シティ銀行編
『福岡県の歴史』 平野邦雄、飯田久雄 著
『黒田如水』 三浦明彦 著
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