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 今や博多の初夏の風物詩と言って言いだろう、六月博多座大歌舞伎公演の役者をお披露目する「船乗り込み」が博多川で行われた。
 川沿いには大勢の観衆から、「天王寺屋!」や「松嶋屋!」などの屋号の呼び掛けが飛んでいる。
 特に片岡仁左衛門が見えると、周囲のおばさんたちが色めき立って、熱狂的に声援を送ったり、写真を撮ったりしていた。
 まぁ博多っ子の芝居好きは今に始まったことではないが・・・。そういうことで、演芸所博多の劇場の変遷をたどってみたい。
第15回 博多の劇場
 江戸時代から明治の始めの芝居興行は、だいたい川原や空地に仮設の小屋を建てて行われていた。

 博多で常設の芝居小屋らしい体裁が整ったのが、明治16年に開場した教楽社(場所は現在の上呉服町)だといわれている。
もともとこの界隈は、博多芸能の発祥の地といわれる寺中町も近くにあって、歌舞伎役者や浪曲師などの芸人が住みつくなど、一種の芸所であった。
壮士芝居で評判を得た川上音二郎が、一座を引き連れて行った凱旋公演も、この教楽社である。


 しかし他の都市と比べ、街に施設の整った大劇場がなかった。中央の役者から、地方公演を敬遠されるゆえんでもある。
そういうことから芝居愛好家の劇場建設運動もあって、明治36年に本格的劇場の明治座(現中洲3丁目)、そして翌年に寿座(現中洲5丁目)が誕生した。各々升席で、二千人近く収容できたという。


 長らく芝居好きの市民のより所であった教楽社の老朽化が目立ち、明治43年、東公園内(現県警察本部周辺)に場所を移して再建されることになった。その劇場名は、博多座と名づけられている。
このこけら落としには川上一座が呼ばれ、川上音二郎も度々お世話になった劇場の移転改築祝いに、快諾し駆け付けている。


 実は川上音二郎、この年に大阪で、自分の演劇の理想を盛り込んで建てた近代的な劇場、帝国座を借金して開場させたばかりでもあった。
過去に自分の劇場(川上座、明治29年、東京で開場)を借金の為、人手にとられた苦い経験もある。借金返済の為、しばらくは大阪に腰を落ち着かせたかっただろう。それが地元への恩返しを優先したのであった。
さぞ当時の博多っ子も、喜んで地元の大スターを観に、新劇場まで足を運んだことだろう。


 さて大正期になると、回り舞台や花道、せりにすっぽん(花道の小さなせり。役者の頭が、出たり入ったりするので、こう呼ばれている。)といった本格的な歌舞伎の設備が整った、九州劇場(大正元年、現中洲4丁目)や大博劇場(大正9年、現上呉服町)が建てられた。

 劇場は新設ラッシュで設備も充実し、各劇場主は競って中央から演劇界の大物俳優を招くようになった。そうして質の高い演劇が、地方都市の博多でも楽しまれるようになったのだ。

また市民の演芸熱の高まりから、演劇や寄席、博多にわかを上演できる中小規模の劇場があちこちに派生している。街挙げて、市民文化が花開く活況だったことだろう。
しかしそれら大半の劇場・芝居小屋は、第2次世界大戦時の大空襲で、街と共に灰燼と化したのだった。

 戦後になると、人々の嗜好も変わったのか、空襲で焼け残った劇場が、映画館やキャバレーに転向したものも少なくない。
その中であの大博劇場も、戦後しばらくして映画館に転向している。
作家五木寛之が、みやけうどんをすすった後に見に行った映画館というのが、ここだ。


また市民会館などの多目的ホールが出現し、常設で本格的な芝居劇場が、市内から姿を消したのであった。
芝居好きの博多っ子には、何とも寂しいご時世となったのである。

 戦後の劇場の空白期間から、平成8年5月になって、久々街に大劇場が戻ってきた。劇団四季の常設劇場として福岡シティ劇場(キャナルシティ4F)がオープンしたのだ。
現在公演している『ライオンキング』は実に2年ものロングランとなっても、人気が衰える気配がない。私も子どもを連れて今度行って来ます、天井桟敷ですが・・・。


 そして平成11年6月、本格的歌舞伎公演ができる常設の芝居劇場も復活した。これが博多座(写真、下川端町)である。この6月でもう4年目を迎える。

 歌舞伎にミュージカル、大物演歌歌手の公演と、質の高い演芸を気軽に楽しめれるのは、何とも市民として幸せなことではないか。

 開幕のブザーが鳴り、客席からざわめきが消え、どん帳が上がる。照明が照らされ、舞台が動き出す瞬間、客席は至福な時間に包まれるのだ。

【参考文献】
『川上音二郎の生涯』 井上精三
『福岡町名散歩』 井上精三
『開場記念 新派 特別公演プログラム』 博多座
『イミダス2002』 集英社
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